院内感染対策のための指針

院内感染対策のための指針を次のように策定し文書化する。また、この指針につい ては日本医師会の「院内感染対策指針のモデル」2007 年10 月および日本赤十字社 の「医療安全・感染管理指針」2017 年4月1日一部改正版・第三版を参考とした。

ア 院内感染対策に関する基本的考え方

われわれ医療従事者には、患者の安全を確保するための不断の努力が求められてい る。医療関連感染の発生を未然に防止することと、ひとたび発生した感染症が拡大し ないように可及的速やかに制圧、終息を図ることは医療機関の義務である。本指針は 院内感染対策委員会の議を経て策定したものである。また、院内感染対策委員会の議 を経て適宜変更するものであり、変更に際しては最新の科学的根拠に基づかなければ ならない。
日本赤十字社前橋赤十字病院は、以下の基本方針に則って感染対策に取り組む。

(1)組織として感染対策に取り組む。

感染の防止に留意し、感染症発生時には拡大防止を主眼として適切に対応するために、感染管理室をはじめとする感染防止対策部門を中心に、組織的に取り組む。

(2)職員が感染対策に取り組める環境を整備する。

職員が感染の防止及び感染拡大防止に関する正しい知識の理解と技術を向上するための研修会等を開催する。また、感染対策に必要な情報を職員が得ることができる環境を整備する。

(3)地域の医療機関と連携して感染対策に取り組む。

感染対策は自院だけではなく地域で連携する施設とともに取り組むことが重要であり、地域内でネットワークを構築し、感染対策に取り組む。

(4)赤十字ネットワークを活用し、院内外や国内外における感染対策に取り組 む。

国内外で新興感染症が生じた際においても、診療が継続できるような体制づくりを行う。例えば指揮命令系統の確立とともに汚染区域(ホットゾーン)・清潔区域(コールドゾーン)の設定を行う体制を確立する。

イ 院内感染対策のための委員会その他の当該病院等の組 織に関する基本的事項

感染管理室の設置

施設管理者は感染管理室を設置する。感染管理室はその役割・機能から院長直轄の スタッフ機能とする。感染管理室は感染管理について組織横断的に活動する組織であり、以下の機能を有する。

  1. 感染に係る指導に関すること
  2. 感染の情報の管理に関すること
  3. 感染の会議等に関すること
  4. 感染の教育に関すること
  5. 感染のインシデントに関すること
  6. 院内外あるいは国内外における感染対策に関すること

感染管理室長

感染管理室の責任者として感染対策の総括的役割を果たす。

(1)選任

施設管理者の指名する副院長等をあてる。ICD(Infection Control Doctor(イン フェクション・コントロール・ドクター):主にICD 制度協議会により認定された感染対策の専門家を指す)であることが望ましい。

(2)役割

感染管理室の責任者として感染対策の総括的役割を果たすこと。

ア 感染対策の指針の策定及び感染管理体制の構築
イ 感染対策に関する職員への教育・研修実施・評価
ウ 感染予防に関する活動管理
エ 感染発生時の対応

感染管理担当看護師

感染管理に必要な研修を修了し尚且つ感染管理に従事した経験を有する看護師。 (社)日本看護協会 感染症看護専門看護師・感染管理認定看護師であることが望ましい。

感染管理担当薬剤師

感染対策に関わる薬剤師。(社)日本病院薬剤師会 感染制御専門薬剤師・認定薬剤 師または(社)日本化学療法学会 抗菌化学療法認定薬剤師であることが望ましい。

感染管理担当臨床検査技師

感染対策に関わる臨床検査技師。日本臨床微生物学会 感染制御認定臨床微生物検 査技師であることが望ましい。

院内感染対策委員会の設置

施設管理者は感染対策に関する医療施設の方針を決定し、その具体的な対応につい て協議するための院内感染対策委員会(以下、委員会)を設置する。委員会は感染管 理室が企画・運営する。委員会は主に以下について協議し、組織としての方針を施設 長へ提言する。

  1. 感染の体制確保に関する事項
  2. 感染対策に関する具体的な取り組みに関する事項
  3. 感染対策マニュアルの見直しと評価に関する事項
  4. 発生した感染に対する事項
  5. その他 院内外あるいは国内外における感染に関する事項

委員会は職種横断的に、診療部門、看護部門、薬剤部門、臨床検査部門、事務部門 等を代表する委員によって構成する。可能な限り、臨床研修医の代表も参加させることが望ましい。

院内感染制御チームの設置

施設管理者は、感染対策の実践的な活動を行う多職種による感染制御チーム(以下、 ICT;Infection Control Team)を設置する。設置にあたっては、病院長直属の組織とし、病院感染症の予防と制御にあたる。
ICT は自施設の院内感染体制に則ってその役割を担うが、ICT の役割を明確にし、その役割を院内に周知する。ICT は主に以下の活動を行う。

  1. 感染サーベイランス
  2. 定期的なラウンド
  3. アウトブレイクへの対応
  4. 抗菌薬の適正管理に関すること
  5. 職業感染管理(当院では衛生委員会と協働する)
  6. 各種マニュアルの作成と改訂
  7. 環境整備
  8. 職員等の教育
  9. その他、院内外における感染対策に関する事項

ICT は多職種によって構成する。その際、感染管理室長、感染管理担当看護師、感染管理担当薬剤師、感染管理担当臨床検査技師の職員が参加することが望ましい。

ウ 院内感染対策のための従業者に対する研修に関する基本方針

感染対策の基本的な考え及び具体的方法について職員に周知徹底を図ることで、職員の感染に対する意識向上を図る。なお外部委託業者についても、その必要性があれば研修等を実施する。就職時の初期研修は、ICT あるいはそれにかわる十分な実務経験を有する指導者が適切に行う。継続的研修は、年2 回程度開催する。また、必要に応じて、臨時の研修を行う。これらは職種横断的に開催する。ラウンド等の個別研修あるいは個別の現場介入を、可能な形で行う。これらの諸研修の開催結果、あるいは、施設外研修の参加実績(開催または受講日時、出席者、研修項目)を、記録保存する。

エ 感染症の発生状況の報告に関する基本方針

感染発生時は院内の規定に従い、ICT もしくは感染対策委員会へ報告する。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に規定される診断及び届出の手続を適切に行う。「院内感染及び届出を要する感染症にかかる報告について」医療事業推進本部長通知・平成29 年3月24 日付医医第62 号に則り、本部へ報告する。

オ 院内感染発生時の対応に関する基本方針

感染発生時の対応について、その原因を速やかに究明し、改善策を立案し実行するために、当院で実行可能な対応基準を次のように整備する。具体的な対応策については院内感染対策マニュアルの「アウトブレイク対応策」に基く。

サーベイランス

日常的に当院における感染症の発生状況を把握するシステムとして、対象限定サーベイランスを 必要に応じて実施し、その結果を感染対策に生かす。カテーテル関連血流感染、手術部位感染、人工呼吸器関連肺炎、尿路感染、その他の対象限定サーベイランスを可能な範囲で実施する。サーベイランスにおける診断基準は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業またはアメリカ合衆国の方法に準拠する。

アウトブレイクあるいは異常発生

院内感染のアウトブレイクとは、一定期間内に、同一病棟や同一医療機関といった一定の場所で発生した院内感染の集積が通常よりも高い状態のことである。アウトブレイクあるいは異常発生は、迅速に特定し、対応する。施設内の各領域別の微生物の分離率ならびに感染症の発生動向から、医療関連感染のアウトブレイクあるいは異常発生をいち早く特定し、制圧の初動体制を含めて迅速な対応がなされるよう、感染に関わる情報管理を適切に行う。臨床微生物検査室では、業務として検体からの検出菌の薬剤耐性パターンなどの解析を行って、疫学情報を日常的にICT および臨床側へフィードバックする。感染症の発病症例が多数に上る場合(目安として1 事例につき10 名以上となった場合)又は当該院内感染事案との因果関係が否定できない死亡者が確認された場合には、管轄する保健所に速やかに報告する。また、このような場合に至らない時点においても、医療機関の判断の下、必要に応じて保健所に報告又は相談する。さらに必要に応じて日本赤十字社や地域支援ネットワーク、日本環境感染学会認定教育病院を活用し、外部よりの協力と支援を要請する。日本感染症学会施設内感染対策相談窓口へのファックス相談を活用する。

カ 患者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針

職員は患者との情報の共有に努め、患者およびその家族等から本指針の閲覧の求めがあった場合には、これに応じるものとする。なお、本指針の照会には感染管理室が対応する。

キ その他当該病院等における院内感染対策の推進のために必要な基本方針

患者・家族へは医療事故対応と同様に誠実なコミュニケーションを基本とし、対応する。感染防止のために必要な情報や知識、基本手技について説明を行い、理解を得た上で協力を求める。